次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「運悪く、そのときにご一緒した写真を週刊誌に撮られたみたいで。それの発売が明日だと、朋子さま側から連絡があったんです。直人さまは一般人とはいえ、今は晶子さまもお一人ですし、なにかあっても困りますから」

 それから、会社近くのホテルをとっているので、しばらくはそこで生活して欲しいとのことが続けられた。念には念を、ということで最低一週間、少なくとも直人が出張から帰ってくるまでは。

「晶子さまにはご不便をおかけして申し訳ありません」

「いえ」

 私はそう答えたが、内心は複雑だった。まだ引っかかっている。仕事とはいえ、直人と朋子が私の知らないところで会っていたことが、心に波風を立てていた。

 案内されたのは、一見普通のホテルだったが、二十五階以上は専用の受付が設けられ、いわゆる高級層の泊まるエリアだった。一人で泊まるのには勿体なさすぎるくらいのエグゼクティブの部屋だった。

「なにかご不便がありましたら遠慮なく仰ってくださいね。当分の間、会社までの送迎は私がいたします」

「そこまでして頂かなくても!」

 栗林さんは相変わらず穏やかな、でもどこか申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。

「そこまでしますよ。直人さまにも言われていますから。明日、七時五十分にロビーに迎えに来ますから」

 今日はゆっくり休んでくださいね、と言い残し栗林さんは去っていった。ここ一時間内に起こった出来事に現実味がなく、一人残された私は自分の置かれた状況を整理しようと頭を働かせる。
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