次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「あまり時間がないんだが、顔だけでも見られてよかった」

 力なく微笑まれ、私は胸が苦しくなった。触れられた頬が熱を帯びている。触れられていない方も十分に熱かった。

「直人は」

「それにしても参った。三日月朋子の影響力はやっはりすごいな」

 ため息交じりに呟かれた言葉に、私の心がざわつく。

「朋子に会ってみて……どうだった?」

 これは今尋ねるような質問ではない。もっと他に話すことが、話したいことがあるはずなのに。

 自分でそう思いながらも私が投げかけた質問に、直人は気にする素振りは見せず、思い出すように少しだけ視線を漂わせた。

「俗な言い方だが、実際に会ってみると、本物はやっぱりオーラが違うな。大勢の人間を魅了するだけあるよ。それなのに、話すと意外と気さくだし、人気があるのも理解できるな」

「そっか」

 今まで散々聞いてきた朋子に対する賛辞。それを直人が口にするだけで私の胸はちくちくと刺されるように痛む。

 そこで、視線を逸らしていた直人がいきなり私をじっと見てきたので、少しだけたじろいだ。そして、しばらくしてふっと気の抜けたような笑顔をこちらに見せる。

「やっぱり似てるな」

 朋子に? 頭を撫でられながら私の心は乱れっぱなしだった。ここは素直にお礼を言っておくところだ。姉妹なんだから当たり前だし、この前の美容室でもそうだった。朋子に似ている、というのは褒め言葉だ。
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