次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「いや、謝るのは俺の方だ。この前は」

「違うの!」

 直人の言葉を遮るようにして私は反射的に叫んだ。誰もいない会議室には思ったより自分の声が響いて慌てて調子を取り戻す。

「その、あのときはコンタクトが、ずれちゃって。……びっくりした、意外と痛いんだね。やっぱり私には向いていないみたい」

 無理やり笑顔を作って答える。苦しい言い訳かもしれないが、これで今日、眼鏡であることも説明がつく。私は直人の顔を見ないまま早口に捲し立て、その横を足早に通り過ぎようとした。

「ごめん、これから同僚とご飯に行く予定なんだ」

「彼女たちに、晶子は今日は欠席するって伝えておいた」

「なんでそんな勝手なことするの!?」

 弾かれたように抗議する。大体、私のことを直人が彼女たちに告げるなんて、どう思われたか。ここは会社なのに、こうして追いかけてくれたのだって色々尾ひれをつけて、あれこれ言われるかもしれない。

「別に。例の週刊誌のことで、彼女に話がある、といえばあっさり納得してくれたよ」

 そうだ、私が朋子の姉であることは周知の事実なわけだし、その相手となった直人からフォローの話があったっておかしくはない。

 面倒くさそうに髪を掻きあげて、直人はドアの横の壁にもたれかかった。おかげで強引にその横を擦り抜けて行くのは難しくなる。
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