次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「やっぱりその眼鏡が悪かったのよ!」

 助手席に乗り込み、叔母に開口一番に指摘される。

「眼鏡に罪はないって」

「大ありよ! そんな晴れ姿に黒ぶち眼鏡なんて色々と台無しでしょ。おばあちゃんが草葉の陰で泣いてるわ!」

 あまりにも早く終了したお見合いに叔母も拍子抜けのようだが、どこか予想もしていたようだ。

「おばあちゃんはどちらかと言えば、お見合いの結果よりも、よく着物を着てくれた! って喜んでると思うけど」

「もう、あんたって子は! そんなんだから二十七にもなって恋人の一人もできないのよ。仕事と趣味以外にももっと視野を広げてみたら? そもそも晶子は昔から……」

 長くなりそうな叔母の話に私は、こっそりと意識をフェードアウトする。しかし、こうして忙しい母の代わりに、なにかと私を気遣ってくれるのは有難いと思っている。ただ、それがお節介すぎるときがあるだけで。

「うん、そうだね」

 適当に相槌を打つと、私はわざとらしく窓の外の景色に目をやった。最近まで桜色に染まっていた山々も徐々に新緑の輝きを増してきている。

 そして、湿り気を含んだ風は梅雨の前独特のものだ。五月も半ばを過ぎて、徐々に気温は湿度を伴い、上がり始めている。

 この着物もちゃんも片付けないと湿気にやられるな、今日のお見合いのことよりも、そんなことをぼんやりと考えた。
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