イケメン富豪と華麗なる恋人契約
ガラステーブルの上には、ふたりが小野寺に差し出した名刺が置かれている。
日向子がそれに視線を向けると、彼女の前にもスッと名刺が差し出された。


「望月(もちづき)商事で社長の個人秘書をしております、沖千尋(おきちひろ)と申します。どうぞ、お見知りおきください」


日向子が千尋の顔を見ると、彼は静かな笑みを湛えて彼女を見つめていた。

だが……どうしてだろう。微笑んでいるはずなのに、どこか冷ややかな印象を受ける。


(この人のルックスが整い過ぎているせい、かな?)


見ているだけで、どうにも気後れしてしまう。
日向子はやたら愛想笑いを浮かべた。


「私は望月商事の顧問弁護士で、朝井真治(あさいしんじ)と申します。今日はアポイントメントなしでお邪魔して、本当に申し訳ありません」


もうひとりの男性が軽く頭を下げながら、小野寺と日向子を交互に見ている。


「いえいえ、ご覧のとおり暇な事務所なんで、どうぞお気遣いなく」


本当のことではあるが、あまりに正直な小野寺の言い様に、日向子のほうがハラハラしてしまう。


(暇なんて言ったら、帰っちゃうんじゃない? せっかくのお客様なのに)


小野寺は今から約二十年前、東京を出るときに一度、司法書士を辞めた人間だった。職務上の問題を起こしたわけではなく、人間関係でつまずいたことが原因らしい。そのせいか、仕事は親しい友人の紹介でしか受けようとしない。

小野寺なりのポリシーがあるのだろうとは思うが、もう少しくらい仕事を増やしてくれたらと、日向子は願わずにいられない。


(だって、家でも職場でも、請求書にドキドキする生活なんだもの……)


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