イケメン富豪と華麗なる恋人契約
自分を名指しされ、日向子はビックリした。
朝井に尋ねようとしたとき、千尋が口を開いた。


「笹木(ささき)朋子さんと直人(なおと)氏のご長女、日向子さんで間違いありませんね」


いきなり、母が最初に結婚したときの姓を出され、しかも実父の名前まで出てきて、彼女は返答に迷う。


「あなたが九歳のときに、朋子さんが三輪新太郎さんと再婚されて、あなたも三輪姓になられた。それ以前は、笹木日向子さんとおっしゃったはずだ」

「そ、そうですけど……わたしのことを調べたんですか? いったい、どうして……」


呆然としたまま声にしたあと、日向子はハッとする。
望月商事で心当たりといえば、ひとつしかない。


「ひょっとして、わたしが送った履歴書になにか問題でも? でも、五年も前のことですよ。今さら、なにがあるというんですか?」


日向子は息せき切って尋ねが、千尋は意味がわからない、といった表情で笑った。その態度がどうにも馬鹿にされているみたいで、日向子はムッとする。


「たしかに、高卒で応募してきて、身の程知らずと思われたのかもしれませんが……だったら、問い合わせたときに、断ってくださったらよかったんです!」


五年前の経緯を話すと、今度は朝井のほうが恐縮し始めた。


「それは申し訳ないことをしました。そういった対応は後々、法的な問題に発展しかねない。私のほうから、求職者への対応をあらためるよう、進言しておきましょう」

「あ、いえ、ですから、もう五年も前のことなんで……」


あのときの担当者が、今も人事課にいるかどうかもわからない。そもそも、今日、望月商事の人が訪ねてくるまで、日向子も忘れていたくらいのことなのだ。


「えっと……あのときのことじゃないなら、どうしてわたしの実父の名前まで調べられたんですか?」

「逆です。直人氏のことを調査していたら、あなたにたどり着いたんですよ」


千尋は打てば響くように答えてくる。


「……父は二十年近く前に亡くなってるんですよ。それなのに、望月商事がどうして笹木の父を調べるんですか?」

「直人氏は朋子さんと結婚する際、妻の姓を選択されました。彼の旧姓は――望月とおっしゃいます」

「そう……だったんですね。わたしは、てっきり、笹木が父の姓だとばかり……え? 望月? ひょっとして、望月商事となにか関係が、ある……とか?」


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