銀木犀

それだ……その『フフ』だ。


僕が苦手なのは。


僕があえて苗字で呼んだのを見透かしてる余裕の笑み。


男女問わず『ユカ』と呼ばれる彼女を、あえて苗字で呼ぶ僕の、近寄ってくんなという意思表示を見透かしている。


そして見透かした上で、傷ついた顔もせず次の言葉を繋ぐ……。


この余裕が憎たらしい……。





しばらく沈黙が流れる。


外からは野球部の掛け声が遠い世界のように響いている。


窓から入ってくる風が、ふわっと白いカーテンを揺らし、昼の名残を残した太陽は、中庭にもう長い影を作っている。


初秋の学校。


夏と秋のそれぞれの顔を持つ季節。
< 9 / 52 >

この作品をシェア

pagetop