イジワル御曹司に愛されています
あっけに取られている私の目の前で、後部座席から、突き飛ばされるように男の人が出てくる。顔を見た瞬間、私は声をあげた。


「都筑くん…!」


デニムにTシャツとカーディガンという、私服姿の都筑くんが、はっとこちらを見る。


「千野…!」


ふたりがかりで無理やり立たされ、マンションの中に連れ込まれようとしている彼に、思わず駆け寄った。


「都筑くん、誰この人たち」

「あなたこそ誰よ、お嬢ちゃん」


ひょろっと背の高い、光沢のあるスーツのひとりが、煙草の煙を吐きながら私に笑いかけた。いつの間にか私の後ろにも、男の人がひとり。

都筑くんが拘束をふりほどこうと躍起になっている。


「やめろ、そいつは関係ない」

「でも、きみのお友達なんだろ、名央くん?」

「ただの知り合いだよ」

「いいや、連れてっちゃって」

「やめろって!」


えっ、と思う間もなく、私は手を後ろで固定され、肩をぐいと押されて転びそうになりながらマンションのエントランスをくぐらされた。

エレベーターで6階に上がり、ひょろっと氏がどこからか出した鍵で平然とドアを開けるのを見て、都筑くんもろとも中に放り込まれる。

部屋の床に投げ出された私を、素早く身体を起こした都筑くんがさっと背中にかばってくれた。

男の人たちは、革靴で上がり込むことになんの疑問を持っていない様子で、ぞろぞろと部屋に入ってくる。全部で四人。

それを見て「土足…」と嫌そうにつぶやく都筑くんも私も、脱ぐひまも与えてもらえなかったおかげで、スニーカーを履いたまま。

ひょろっと氏が品のない上着の内ポケットから封筒を取り出し、私たちの前のローテーブルに置いた。


「さて、用件はわかってるよね、坊ちゃん?」


私をベッドと自分の間に押し込むようにして、都筑くんはじっと彼を見上げた。ひょろっと氏が、ふっと笑う。
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