イジワル御曹司に愛されています
両手のあくショルダータイプの小さなバッグとスニーカー。5月もなかばになり夏の気配も近づいてきたので、軽やかなスカートに半袖のブラウス、パーカー。
お昼前のこの時間、おいしいお店に向かって人が動くときだ。目的地のありそうな人についていけば、かなりの確率でいいお店に出会える。
マンションを出ると、青い空に刷毛で描いたような薄い雲の浮いた、絶好の散歩日和。気持ちよさに伸びをして、ぶらぶらと歩きだした。
都筑くんのマンションのほうに来てしまったのは、決して意図したわけじゃない。いや、やめよう、意図しました…。
偶然会うのはさすがにないとしても、気配くらい…って、これ一歩間違ったらストーカーじゃないか。
なまじ徒歩圏内に住んでいると、欲が出てしまう。都筑くんの部屋は6階で、道路に面しているのがまた悪い。ちらちら見上げながら歩いていたら、ふと同じようにこそこそと、同じような場所を見上げている道端の人影に気がついた。
休日のこのあたりにはあまり見ない、スーツ姿の小柄な年配の男性。
素知らぬ顔でその前を通り過ぎたとき、その人の声が耳に入ってくる。
「…ああ、名央は出かけていった。…わからない、けど用心…」
一見電話しているようでもない、ハンズフリーの会話。怪しい、と思ったときには数歩戻り、その人に詰め寄っていた。
「それも不明。また連絡する…うわっ!」
「名央って都筑くんのことですか」
地味な見た目のおじさんが、明らかにうろたえる。やっぱりそうなんだ。私は張り込みへの闖入者に慌てるその人に、ぐいと顔を突き付けた。
「こんなところで見張って、"叔父さん"の手先かなにか? 都筑くんになにする気? まさかこの間都筑くんを監禁した人じゃありませんよね」
「えっ…」
「そうなんだ!? あっ、こら!」
逃げた!
小太りなのに素早い。すぐに見えなくなってしまい、細い路地の入り組んだこの辺じゃ、もう追いかけても無駄だとあきらめた。
都筑くんの部屋を見上げる。
嫌だなあ。会えないだけでもさみしいし不安なのに。都筑くんがなにを背負って、どんなものに囲まれているのか、私には知りようもない。
ため息をついたときだった。黒い、いかにも高級そうにあちこちぴかぴかしているセダンが走ってきて、マンションの前で停まる。すべてのドアがいっせいに開き、スーツ姿の男性たちが降りてきた。
スーツと言っても、会社勤めの人が着るようなのじゃない。色味といい素材といい、なんていうか、怖い感じのする仕立て。
お昼前のこの時間、おいしいお店に向かって人が動くときだ。目的地のありそうな人についていけば、かなりの確率でいいお店に出会える。
マンションを出ると、青い空に刷毛で描いたような薄い雲の浮いた、絶好の散歩日和。気持ちよさに伸びをして、ぶらぶらと歩きだした。
都筑くんのマンションのほうに来てしまったのは、決して意図したわけじゃない。いや、やめよう、意図しました…。
偶然会うのはさすがにないとしても、気配くらい…って、これ一歩間違ったらストーカーじゃないか。
なまじ徒歩圏内に住んでいると、欲が出てしまう。都筑くんの部屋は6階で、道路に面しているのがまた悪い。ちらちら見上げながら歩いていたら、ふと同じようにこそこそと、同じような場所を見上げている道端の人影に気がついた。
休日のこのあたりにはあまり見ない、スーツ姿の小柄な年配の男性。
素知らぬ顔でその前を通り過ぎたとき、その人の声が耳に入ってくる。
「…ああ、名央は出かけていった。…わからない、けど用心…」
一見電話しているようでもない、ハンズフリーの会話。怪しい、と思ったときには数歩戻り、その人に詰め寄っていた。
「それも不明。また連絡する…うわっ!」
「名央って都筑くんのことですか」
地味な見た目のおじさんが、明らかにうろたえる。やっぱりそうなんだ。私は張り込みへの闖入者に慌てるその人に、ぐいと顔を突き付けた。
「こんなところで見張って、"叔父さん"の手先かなにか? 都筑くんになにする気? まさかこの間都筑くんを監禁した人じゃありませんよね」
「えっ…」
「そうなんだ!? あっ、こら!」
逃げた!
小太りなのに素早い。すぐに見えなくなってしまい、細い路地の入り組んだこの辺じゃ、もう追いかけても無駄だとあきらめた。
都筑くんの部屋を見上げる。
嫌だなあ。会えないだけでもさみしいし不安なのに。都筑くんがなにを背負って、どんなものに囲まれているのか、私には知りようもない。
ため息をついたときだった。黒い、いかにも高級そうにあちこちぴかぴかしているセダンが走ってきて、マンションの前で停まる。すべてのドアがいっせいに開き、スーツ姿の男性たちが降りてきた。
スーツと言っても、会社勤めの人が着るようなのじゃない。色味といい素材といい、なんていうか、怖い感じのする仕立て。