イジワル御曹司に愛されています
「協力しなさいって言いたかったんじゃないの、お父さん」


反応の鈍い身体を揺する。


「叔父さんと、力を合わせなさいって、そう言いたくて、都筑くんにこれ、くれたんじゃないの」


私にペンを取られたままの、中途半端な形に右手を静止させて、都筑くんがようやく、少しだけ表情を動かした。

もどかしくて、カーディガンを握りしめて思いきり揺さぶった。


「それからもし、叔父さんが間違ったことをしようとしたら、お前が止めなさいって。それがお父さんの言いたかったことなんじゃないの」


都筑くんが私に言ってくれたんじゃない。

あきらめないでよ。あきらめないでよ、絶対。


「あきらめないでよ、都筑くん!」


ついに彼の目に、はっと力がもどった。私と視線を合わせてから、テーブルの上の書類を見つめ、隣にしゃがみ込んでいる怜二さんに顔を向ける。

怜二さんはなにかを感じ取ったんだろう、ゆっくりと立ち上がって、冷ややかに微笑んだ。


「書かないんだな」

「………」

「はっきり宣言できないのは、そこのお嬢さんのためだな?」


冷笑が私のほうを向いたので、身体がすくんだ。都筑くんがまた、背中の陰に私をかばう。

じり、と私と都築くんを囲む、男の人たちの輪が縮まった気がした。


「名央よ、かさねがさねお前の信頼を裏切るようで悪いんだがな、この件にかんしちゃ、俺は手段を選ばないって、もう決めてるんだ」

「やめてくれ、俺にはなにをしてもいいけど、こいつは」

「だから、選ばないんだって」


その言葉が合図だったかのように、ひょろっと氏が私の腕をつかんだ。


「きゃあ!」

「やめろ!」


奪い返すように都筑くんが私を引き寄せ、頭を押さえ込むようにして抱きしめる。私からは周囲がまったく見えなくなって、都筑くんの胸の早鐘だけが聞こえてきた。
< 129 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop