イジワル御曹司に愛されています
違うんだよ、私こそ子供だったの。視野が狭くて自信がなくて、だから都筑くんのことも、勝手に別世界の人って決めつけて、自分を被害者にしていた。

私がもう少し強ければ、都筑くんの声を、もっと素直に聞くことができたのに。顔を合わせるたび話しかけてくれた、あの時間をもっと、楽しむことができたのに。


「なんで泣きそうなの?」

「ごめんね…」

「何回言わせんの?」


おでこをごつんと合わせて、顎の下をくすぐられる。


「…ありがとう」

「それもわからない」

「ずっと好きでいてくれて」

「まあ、間にも俺、女いたしね」

「そうだよねえ?」


突如、頭が現実に戻ってきた気がした。あれだけ慣れていて、そのもてそうな風貌で、そうじゃなかったわけないよねえ?

くすくす笑って、唇にキスをくれる。


「学生時代の話な」

「あ、そう」

「気に入らない?」

「別に、過去のこと言っても仕方ないもん」

「仕方ないのは置いといて、気に入らないかどうか教えろよ」

「言える立場じゃないし」

「立場も置いといて」

「言わされて言うものでもないと思うし」

「案外しぶといな!」


声をあげて笑って、抱き合ってキスをした。

はしゃいだキスは、だんだんと深く、とろっと甘いものに変わっていく。レースのカーテンの向こうは、初夏の午後の日差し。

煙草のことは、忘れてしまったみたい。


「この部屋、西向き?」

「そう。これからの時間帯、めちゃくちゃ暑くなるよ」
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