イジワル御曹司に愛されています
「あの、それは、もう」

「お前が痩せたいってぼやきながらお菓子バリバリ食ってた話をしようとしたの。俺はそれ笑ってたし、無理だろって思ってたけど、別にお前が太ってたとは思ってない」

「太ってたよ…」

「女って、そのへんの感覚、ほんとずれてるよな」


あきれたように言って、また私のために、遠くの酢豚を取ってくれる。そしておいしい。

ふと視線を感じると思ったら、都筑くんが頬杖をついて、こちらを観察していた。


「え、なに?」

「うまそうに食う奴、いいじゃん」

「えっ」

「なに食ってもカロリーのことしか考えてないとか、太らない秘訣とか言って必ず一口残すとか、写真撮ってばっかとか、そんな女より全然いい」


よっぽどたくさん女の子と食事してきたんだね。というのはわざわざ言わないけれども。


「女のがんばりも認めてよ」

「俺に言わせればみんな痩せすぎ。お前も」

「これで普通だよ。キープするのにそこそこ努力してるんだから、よけいなこと言わないで」

「大丈夫? 大事なとこも減ってんじゃねえの?」


ふっと胸のあたりにかざされた手に、思わず「きゃー!」と叫んだ。再び注目を集めてしまう。


「あ、ご、ごめんなさい、なんでもないです」


胸をかばうようにぎゅっと腕を寄せて、また真っ赤になって首を振った。テーブルの陰で、その腕を小突かれる。


「冗談に決まってんだろ、ほんとにさわるかよ、バカ!」

「だって!」

「大声出すな!」


ささやき声で叱られて、むっとした私を、彼がじろりとにらんだ。


「結局そうやって酔っぱらってんじゃねーか、さっさとそれ飲んで酒抜けよ」

「酔っぱらってなんかいません」

「ああそう? 俺、潰れた女とかマジで嫌いだから、絶対助けないぜ」


冷たく言って席を立ち、先生たちのお酌に行ってしまう。

なんなの。ちょっと優しいと感じたらこの調子だし。からかったかと思えば急にまじめになるし。

行儀よく先生のそばに膝をつき、楽しそうに会話する姿を盗み見る。

こんなに時間がたったのに、握られた手がまだ熱いなんて、口が裂けても言えない。友達みたいに振る舞えているのが、少し嬉しいなんて言えない。

ほんと困る。

どうしろって言うの。


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