イジワル御曹司に愛されています
「…都筑くんは、お酒強いんだ?」

「別に普通」


でも、なんだかんだけっこう飲んでいるよね。

けれどそういえば、彼はほかの誰かとのつきあいでしかお酒を注文していない。飲めるとはいえ、好きなわけではないのかもしれない。

ふいに都筑くんが、先生方に話しかけた。


「おふたりのお名前でボトル入れさせてください。水割りセットとウーロン茶頼みましょう。僕作りますから」


喜んだ先生たちがますます盛り上がっているところに、ボトルとその他もろもろが運ばれてくる。

手際よくふたりぶんの飲み物を提供した都筑くんは、さっともうひとつなにか作って、私の前に置いた。


「ねえ、都筑くんて愛知? あっちに多いんだよね、都筑姓」

「そっちにも親戚がいると聞いたことはありますが、僕自身は神奈川です」

「横浜?」

「残念ながら、都筑区とは無関係で」


はは、と談笑する姿を横目に、もらったグラスの中身をなめてみた。ウーロンハイに見える程度に薄められた、ウーロン茶。


「先祖が藤原氏とかなんとか、でもどこまで本当か」

「だとしたら都筑区と全然無関係じゃないよ、あそこは武蔵国都筑郡と呼ばれていて、藤原の北家筋がそこで都筑姓を名乗ったんだから」

「へえ!」

「あなた、なんの専門なのよ」

「好きなんだよ、民俗学的な苗字の話」


時事ネタや社交辞令に疎く、人見知りの先生たちもすっかり打ち解けている。これも都筑くんの営業力なんだろうか。それとも、本人の魅力なんだろうか。


「…ありがとうね」


会話がひと段落したとき、そっとお礼を言った。不思議そうにこちらを見るので、グラスを指さしてみせる。


「ああ」

「助かった」

「俺、別にお前の体型の話しようとしてたんじゃないからな」

「え?」


いつの間にかあぐらに脚を崩した都筑くんが、じっとこちらを見ている。さっきの話か、と忘れかけていた恥ずかしさがよみがえった。
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