イジワル御曹司に愛されています
唐突にあかねがネイリストさんに指してみせたのは、こってりとしたまろやかなワインレッド。


「いいなあ、私もそのあずき色にしようかな」

「あずき色って言うのやめてよ」


でも、あずきの色をしている…。

ネイリストさんがくすくす笑って、なんとかという流行色の名前を教えてくれたのだけれど、残念ながら耳慣れなすぎて頭に残らなかった。

私とあかねは、会社帰りや休日に、こうしてここに一緒に来ることが多い。月に一度ほどの、贅沢できらきらした時間。

店長さんである女性のネイリストさんがひとりで施術しているので、同時進行はできず、お互いのネイルが仕上がるのをそばで楽しく見ながらおしゃべりする。


「寿さんは、いつも控えめなオフィスネイルですもんね。この色でしたら落ち着いたお爪に仕上がるので、おすすめですよ」

「よし、秋らしいし、私もそれにしよう」

「わー、おそろい」


あかねが、ジェルオフのためにアルミ箔の巻かれた指を動かして喜ぶ。

こういう種類の楽しさって、小さいころからずっと変わらない。


「私、夏に実家帰ったとき名簿ひっくり返してみたんだけど、やっぱり都筑と寿、一度も同じクラスになってないよ」

「あ、やっぱりそうだよね?」


よかった、私の思い違いじゃなかった。


「そして私は二年のとき同じだった」

「よく忘れてたね」

「だって、ほんと教室にいなかったんだもん。いても一番後ろの席で、発言もしないし誰とも絡まないし。ということを少しずつ思い出してきた」


学生時代は読者モデルもしていたあかねは、華やかな顔立ちにすらっとした身体を持つ、まさに私の憧れのタイプだ。

私はさばを読んでも155センチないくらい。まあ、悲歎にくれるほど小さくはないので、別にいいのだけれど。


「きっかけも覚えてないの? その、そういう声をかけられるようになった」

「思い出そうとしてるんだけど…」
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