イジワル御曹司に愛されています
やっぱり、どうというきっかけもなかった気がする。

容姿や制服の着こなしから、私とは違うことをしに学校に来ている人だと一目でわかる、ああいった人種に、私がわざわざ近づくわけがない。向こうから来るわけもない。

トラブルかなにかがあったのならさすがに覚えているはずで、それもない。


「うーん…」

「向こうは仲よくしてたつもりなんじゃないの」

「それ、いじめの仲裁で一番の禁句じゃない?」

「いじめじゃなかったんでしょ?」

「うん、まあ…。でも、仲よくって感じではなかったよ。私だって、友好的なのかバカにされてるのかくらい、わかるもん」

「へえ、じゃあ今はどうなの」

「………」


どうなんだろう…。

相変わらずバカにされてはいるけれど、それは以前のそれとは、ちょっと違う。でも友好的かと言われると、それもどうかなあと思ってしまう。


「取引先だしね…」

「まあ、関係を良好に保っておこうとはするよね、普通」


あかねの言葉に、なにかがずしっと来た気がした。

そうだよね、こういう形で再会したら、どうやっても関係修復しようと努力するよね、向こうからすれば。

自分でそういうつもりの発言をしたくせに、ショック受けるとか。


「え、ショックなの?」


気づけばあかねが、右手をネイリストさんに預けてこちらを見ている。私は白いテーブルに頬杖をついた状態で、じわじわ顔が赤くなっていくのを感じた。


「…声に出してた?」

「出してたよ。なに、仕事とか置いといて、都筑と仲よくしたいわけ?」

「そんなこと言ってないよ!」


さらに赤くなった気がする。


「高校のころの苦い思い出を、塗り替えるチャンスなんでしょ。これを機に仲よくなっておけば、ついでに男への苦手意識もなくなって彼氏ができるかもよ」

「苦手意識なんてないし、彼氏求めてもいないし…」

「まー、私はああいうチャラいの論外だけど」

「今はチャラくないんだってば、思い出して」

「あっ、そうか。つい忘れちゃうな」


その程度の興味なら、変に核心突いたこと言わないでよ!

赤くなった頬を手で押さえ、だんだん仕上がっていくあかねのきれいな爪に目を落とす。一度あんなふうに長く伸ばして、ストーンやパールで飾ってみたい。

でも私にはできない。職場の雰囲気がそれを禁じていなかったとしても、だ。
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