イジワル御曹司に愛されています
「ああ、展示会の件?」

「そう、それで今日、これまで作った計画書を見せて、どんなことをしたいと思ってるか説明したの。そうしたらすごくいい反応をもらって、みんな前向きで」

「そっか、よかったな」

「都筑くんのおかげ、ありがとう、ありがとうね!」


よたよたしていたせいで、差し伸べてくれた腕に転がり込むようにして、精一杯の感謝を伝えた。

今になって、都筑くんのアドバイスすべてが、いかに的確だったかわかる。

私たちにしか語れなくて、この小さな協会でも自力で実現できて、展示会の来場者に合わせて浅すぎず深すぎず。そんな展示になるよう、彼は巧みにリードしてくれていたのだ。


「おつきあいのある海外の団体に連絡したらね、同業者を連れてこの展示会のために来日するつもりだったんだって。ブースに必ず寄ってくれるって」

「すごいじゃん、これで新しい取引が始まったらいいな」

「都筑くんじゃなかったら、私絶対ここまでできなかった。本当にありがとう」


私は夢中で、彼の手を握りしめていた。ずいぶんその手が熱いな、と気づいて、改めて向こうの顔を見上げ、呆然としてしまった。

都筑くん、耳、赤いよ…。

気づかれたことが耐えがたいのか、彼が不本意そうに唇を噛んで目をそらす。

え、あれ…、え?


「あの」

「これ、ポスターとフライヤー。と、小冊子。50部ずつ置いてくから、もっと配れそうなら言って。また持ってくる」

「あっ、どうもありがとう、きれいなデザインだね」

「どうも。じゃあ」


大きめの手提げ袋を私に持たせると、きびすを返して出ていこうとする。えっ、ちょっと待って。


「都筑くん」

「別に俺は、礼を言われるようなことしてない。仕事だし」

「それでも」


腕を取ろうとしたら、ぱっとよけられた。怒ったような顔が振り向いて、その顔の通りの声が言う。


「お前ががんばったんだ。だから俺は手伝ったの。うまくいってよかったな。俺も嬉しい。それだけ。じゃあな」


再び出ていこうとした彼は、ふと上着のポケットを探り、なぜかまたこちらを向いた。取り出したなにかを私にくれる。手のひらに落ちてきたのは、飴だった。
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