イジワル御曹司に愛されています
「ありがとう…」

「うち、29日から冬季休業だから。休み中もなにかあれば対応させてもらうけど、そのときは、連絡は会社じゃなくて俺にして」

「わかった、ありがとう、えっと、うちも29日から」


話していないと帰られてしまいそうで、なんだか懸命にしゃべった。


「都筑くん、実家には帰る? 私、休みはほとんど向こうにいるつもりなの」

「帰らない」

「…一日も?」

「うん」


大晦日や元旦を、家族と過ごすこともしないの?

どうしてか、そういうことを聞かせない雰囲気があったので、私はようやく黙るしかなくなり、もらった飴を握る。


「じゃ、俺、予定あるから」

「あっ、ごめん、わざわざありがとう」

「次会うのは、年明けかもな。よいお年を」


まだ冬休みまで二週間もあるよ、と笑いかけて、笑いごとじゃないと我に返った。そうか、これまでみたいに面倒を見てくれる期間は、過ぎたんだ。


「…都筑くんも、よいお年を」

「サンキュ」


にこっと微笑んではくれたものの、名残を惜しむ様子も見せず、自動のガラスドアを抜けて出ていってしまう。

あまりにそっけないような気もしたけれど、よく考えたら、彼はいつもあんな感じだ。単に、私が感じているだけだ。

さみしいって。


* * *


「千野、痩せた!」

「すみません…」


第一声がそれかー、とクラスメイトだった男の子の明るい乾杯に応えた。


「あのころは、思春期太りっていうかね」

「え、別に太ってたってほどじゃないでしょ」


いやー…と同窓会会場であるホテルのパーティホールの壁一面に貼ってある、高校時代の写真を見ながら思った。卒業生たちからデータ提供を募ったものだ。私も何枚か幹事に送付した。

うん、やっぱり太いよ、私。

ウェイティング用のお酒を飲みながら、懐かしい顔ぶれを眺めていた私の肩を、誰かが叩く。


「あー、間に合った! いや間に合ってはいないけど」

「まだ乾杯前だし、セーフだよ、お疲れさま」
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