イジワル御曹司に愛されています
私の後ろから、ヒールの軽やかな音が近づいてくる。都筑くんが、私越しにそちらに視線を投げ、私の前から消えた。

振り返った先には、手を振って駆け寄る未沙ちゃん。合流する都筑くん。


「久しぶり、どう、私のこと思い出した?」

「いや」

「ひっど! まあけっこう変わったしね。でも都筑くんも変わったね」

「そう?」

「でも相変わらずかっこいいよ」


はしゃいで腕に絡みつく未沙ちゃんを振りほどくこともせず、都筑くんは駅のほうへ歩きだした。一瞬だけ、私のほうを振り向いてから。

立ち尽くした私は、どう見えているんだろう。

くっついたふたりの影はそのまま、遠ざかって見えなくなった。


「今すれ違ったの、未沙だよね?」


気づいたら目の前にあかねがいて、はっとした。私は相当ぼんやりしていたらしく、あかねが私の顔の前で手をひらひらさせている。


「あれっ…あかね、どこから来た?」

「あんたの正面からだよ。ずっと手振ってたのに、気づかないんだもん」


そうか…。


「未沙といたのって、都筑? 寿から聞いてなかったらまったく結びつかなかったわ。あれはほんとに別人だね」


きれいなダウンジャケットを着たあかねが、胸の前で腕を組む。反応しない私に眉をひそめてみせると、軽く握った手を私の口元に突き出した。


「寿さん、どうお感じですか」


私はなにも答えられず、歩道に目を落とす。

あかねが、ぽんと肩を叩いた。


「今日は飲もっか。ワインの合う食事らしいし」


うん、とくしゃくしゃになった顔で答えた。

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