イジワル御曹司に愛されています
どうお感じですか、私。

その夜は帰ってからも、何度もそんな自問自答をした。

もやもやします。

腕時計を見て、時間を確認していた都筑くん。思えばあれは未沙ちゃんのための動作だったわけで、そんなささいなことも、ちくちくと刺さります。

今日が金曜日だということすら、胸のくすぶりを強くする。

寝そべったベッドから壁の時計を見る。もうすぐ0時。

都筑くんたちは、まだ一緒にいるんだろうか。これからの流れとか、お互い考えていたりするんだろうか。そんな駆け引きめいたことを、都筑くんもするんだろうか。

上着を脱ぐ仕草とか、ものを食べるときの口元とか、いつもぴっと清潔なネクタイとか袖口とか、そんなものが次々浮かんできて、いたたまれなくなった。

いつの間にか私の中に、溜まっていた都筑くん。

腕で顔を覆った。

どうお感じですか?

…考えたくないです。


* * *


「倉上(くらかみ)と申します。よろしくお願いいたします」


翌週すぐに、言っていた通り都筑くんは"事務局の担当者"を紹介してくれた。待ち合わせた駅で、愛想よく名刺を差し出しているのは、同い年くらいの男性。


「千野と申します、これからお世話になります」

「僕は都筑ほど怖くありませんので。かまえないでくださいね」


私を笑わせて、都筑くんからわき腹にドンと拳をくらっている。いい人だ。


「今日はですね、会場の下見ができる日なので、ご一緒にというのと、基調講演のテーマが決まりましたのでそのご報告を」


埋め立て地に立つ都内最大級の展示場。なかなかできない、控え室やセミナールームの見学が可能というので、打ち合わせがてら、せっかくならどう、と都筑くんに声をかけられたのだ。

倉上さんが私のぶんの入場パスをくれる。どうやって服につけるのかわからずにいたら、都筑くんが取り上げ、裏側がわかりづらいクリップ構造になっているのを見せてくれた。


「今ですね、2,500名が着座可能なホールを確保しています」

「に、2,500名ですか」
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