イジワル御曹司に愛されています
「…なにを、怒ってるの?」


また目をそらされた。


「別になにも」

「でも、変だよね、全然会話してくれないし、こっち見てもくれないし」

「その台詞、まんま返すわ」


荒っぽい仕草で手帳を閉じ、携帯をそこに載せる。あんまりだ。


「私はいつも通りだよ」

「どこが? 挨拶回りも今日も、どう見ても俺を無視だよな。なにが『かっこよかったので』だ。よく言えるな」

「なんでそれが気に入らないの? 無視なんかしてない。都筑くんが先に怒ったんじゃない、未沙ちゃんの話したときから…」


思い出すだけで声が詰まった。コーヒーカップを、意味もなく持ち上げてみる。


「それだって、怒ったわけじゃねーよ」

「でも、不機嫌になってたよね?」

「当たり前だろ。なんで顔も覚えてない女に連絡先伝えなきゃならないんだよ」

「そんなに嫌なら、そう言ってくれたらよかったじゃない」

「それが通じないからお前がかけてきたんじゃないの? 不機嫌になる権利くらいあるだろ、俺」

「でも結局、会ってたじゃない!」


それなら私に、そんな態度とらなくたっていいじゃない!

椅子に浅く腰かけ、脚を雑に組んでポケットに両手を入れている都筑くんは、高校のころの彼みたいにつかみどころがなくて、怖い。愛想や気遣いのまったくない目つきでじろっと見られると、泣きたくなる。


「流れで会っただけだろ。ああいうのは断るほうが面倒くせーんだよ。俺のほうが泣きたいわ、あんなくだらないことに時間使わされて」

「私、泣いてないよ」

「目赤いぜ」


慌てて携帯の画面に顔を映してみたけれど、別に赤くなかった。

悔しくて向こうをにらんだら、バカにしたような笑みが返ってくる。


「で、お前はなにに腹を立ててんの? 俺のしたことが気に入らない? 更生したと思ってたのに、相変わらずの女ったらしで幻滅した?」


かっと顔が熱くなった。

都筑くんが上着の内ポケットから煙草を取り出した。見慣れない仕草に、目が釘付けになる。
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