イジワル御曹司に愛されています
取引先に対する態度ではないと気づいたのだろう、倉上さんが「あれ?」と私たちを手で指す。

都筑くんはいかにも面倒くさそうに、それに応じた。


「高校の同級」

「えっ、偶然?」

「そう」


まるで私にかんする話はしたくないと言っているようなその受け答えに、私は自分でも驚くほど傷ついてしまう。

そんなかったるそうにしなくてもいいじゃない…。


「こいつ、昔からこんな、なに考えてるかわからない奴でした?」


倉上さんが笑いながら、都筑くんを指さす。それに鬱陶しそうな視線を向けていた都筑くんが、ちらっと私を見た。

わあ、答えづらい話題だ…。


「えーと」

「当時から仲よかったんですか?」

「から、というのは、えっと」

「どうせもてたでしょ、こいつ」


ふたりが仲よしなのは本当なんだろう、都筑くんに指を払いのけられながらも、倉上さんは気にする様子もない。


「はい、か、かっこよかったので、そのころから」

「やっぱりそうなんだ、ムカつきますねー」


明るく笑う彼のほうを、見ることはできなかった。

椅子の種類や控え室への導線を確かめたところで、「疲れたでしょう」と倉上さんが休憩を提案してくれた。こそっと都筑くんの様子をうかがうも、相変わらずひとりどこ吹く風で、なんの反応もない。

促されるまま施設内のカフェに入り、少し雑談したところで、倉上さんに電話がかかってきた。ここでどうぞ、と言うより先に、彼はさっと断ってカフェを出ていってしまい、私は都筑くんとふたりきり。

これまでになく嫌な沈黙が降りていた。

仕事の話をする空気でもない。都筑くんは私なんていないみたいに、コーヒーを飲みながら、携帯と手帳を見比べてなにか作業している。

耐えられなくなり、私は「あの」と発してしまった。

目だけがこちらを向くも、なにも言ってもらえない。
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