イジワル御曹司に愛されています
難しい顔をしてワインリストをにらんでいる。

ほんとに信じてくれたのかなあ。逆によく、信じていない状態で、あんなに親切にしてくれたよね。そういうところ、十分優しいと思うんだけど。


「川合くんと御宿くんは覚えてたんだ?」

「まあ、さすがによく一緒にいたし」

「先生は? 学年主任の久野(くの)先生とか」

「名前が出てこないんだけど、いつもジャージの、いかついのいたじゃん、あれは覚えてる」

「それだよ、久野先生」


体育教師にしか見えないけれど、実は古典の先生という意外性の持ち主だ。都筑くんはワインを決めたらしく、店員さんのいるカウンターを振り返りながら「あ、そうなんだ」と言った。


「あの先生には俺、殴られたからよく覚えてる」

「な、殴られた!?」


あんな穏やかな学校で、そんなことが起こり得るの?

素っ頓狂な声をあげた私に、なんでもないことのようなうなずきが返ってくる。


「『お前、受験はどうするんだ』って聞かれたから『あ、します』って言ったら、だったらもっとちゃんとしろーって怒鳴って」

「そんなので!」


先生、手早すぎでしょ!


「とっさに手が出たって感じだったから。なんか、親父みたいな気分になっちゃったんじゃない?」

「それにしたって…」

「まあ、ありがたいもんだよ、そういうのも。当時は、なんだこいつって思っただけだったけど」

「で、その後どうしたの?」

「普通に、『どこ行きたいんだ』『この辺のレベルの大学』『なら模試くらい受けろ!』みたいな感じで、進路相談乗ってくれた」


多額の寄付をして先生を黙らせているなんて、とんだでまかせじゃないか。


「現役で受かったのは、その先生のおかげかもと思う」

「都筑くんて、大学こっち?」


うん、とうなずいて教えてくれたのは、ハイレベルの私立大。やっぱり勝ち組はどこまで行っても勝ち組なんだな…。
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