ガラクタ♂♀狂想曲
「わたしは店のほうへ顔を出してきます。戻りを待っているスタッフに悪いですからね」
「どこへ向かうのですか?」
「そうですね。このあいだ行きそびれたカフェといいたいところですが、この時間ですので…、まあ乗って待っててください。すぐ戻ります」
タクシーの中から、急かすかのようなわざとらしい咳払いが聞こえた。
「——さあ、早く乗ってください」
見た目も口調や態度もソフトに見えるけれど、決して自分の言い出したことは折らない。そんな印象のオーナーを力なく見上げ、溜息ひとつ。タクシーへ乗り込んだ。
今日はデンちゃんがうちに来ない日。サークルに所属するデンちゃんは、きっといまごろ早めの忘年会になっているはず。
携帯を開け履歴をチェックしてみた。私のほうにはデンちゃんからのメッセージや着信も入っていない。
はあ、と息を吐き出し顔を上げれば、ミラー越しに運転手と目が合ってしまい、気まずくなって窓へ顔を向けた。
だけどどうしてデンちゃん、急に。
私にコーキさんを紹介したいとか、そんな気配すら見せなかったのに。
「———お待たせしました」
少し息を弾ませるオーナーはすとんと私の隣へ腰を下ろし、運転手へ向かって地名を伝えた。
「タクシーに乗るほどの距離でもないですが」
私に向かってそう言い、そしてシートへ背中をつけて息を吐き出す。
「なんだか息が上がります。もう年ですね」
冗談のつもりなのか、単なるひとり言なのか。そう言ったオーナーはネクタイへ手を掛けスルスルとそれを首から抜いた。
「…あの」
「なんでしょう」
「本当にデンちゃんが?」
「ええ。できれば今週末。もしくは月末までに、とのことです」
そんなに急に。
「なぜでしょうか?」
「それは"デンちゃん"に聞かないかぎり、わかりませんよ。まあ、察しはついておりますが。あいつの出方次第ですね」
「——どういう意味ですか?」
「のちほどお話します」
前方へ顔を向けたまま、そう言ったオーナー。それからしばらく沈黙が続く。