例えば危ない橋だったとして

「……もう涙止まった?」

左手は背もたれに添えられたまま、空いていた右手の指が、優しくわたしの頬を撫でた。
黒澤くんの顔が近過ぎて、直視出来ない。

「うん……」

目線を合わせずとも、顔が真っ赤に染まって来た。
どぎまぎしているのが、ばれてしまう。

30秒程、その状態を保っただろうか。
黒澤くんが手を放し、再びベンチにもたれた。

……キスされるかと、思った……。

……そんなはずないか、と思い直す。


「……気持ちの整理は、ついたの?」

黒澤くんが、わたしの足元の辺りに眼差しを送り、問い掛けた。
わたしの気持ちを、慮ってくれている……ただそれだけで恋愛感情がないとしても、嬉しかった。
わたしも黒澤くんの足先の一点を見つめ、少し思い巡らせてから、答えた。

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