例えば危ない橋だったとして

「……今、整理してるところ……」

黒澤くんがわたしに視線を注いだのがわかったけれど、目は合わせなかった。
もしも、黒澤くんにその気があったとしても、今のわたしのままでは恋愛関係に戻ったところで、また同じことが起こると思えた。

「わたし、強くなるから……自分で自分を、支えられるようになるから、だから……」
「……だから?」

黒澤くんが続きを促したが、口には出来なかった。
やや眉を八の字に下げ、ただ微笑みを返した。

『待っていて欲しい』などと、図々しいことは言えない。
もしかしたら、黒澤くんには既に他の人が居る可能性もある。
わたしに黒澤くんを拘束するようなことを発言する権利はない。

黒澤くんは優しいから、わたしをなだめるために話を聞いてくれただけかもしれない。
黒澤くんの気持ちは? と胸を掠めたけれど、問い掛けられなかった。

駅までの帰り道を、手は繋がずに歩いた。

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