例えば危ない橋だったとして

翌週は怒涛のような忙しさで、あまり皐と会話する暇はなく、プライベートでも連絡は少なめだった。

それでも金曜日の残業終わりに飲みに行った。
今回は皐と初めて飲んだ居酒屋へ足を運んだ。

「すいません、生」

1時間も経たない内に、皐は店員に3杯目のジョッキを挙げておかわりを注文した。

「なんか今日、ペース早くない……?」
「……んー……飲みたい気分なんだよ。枝豆も追加しよ」

「……何かあったの?」
「…………いや? 今週忙しかったから」

わたしは心の中で、年明けからずっと忙しいけどなぁと思い描きつつ、確かに今週は忙しさもピークだったような気がするし、皐の中で厄介な仕事などがあったのかもしれないとも考え、気に留めないことにした。


2時間程が経ち店を追い出された頃には、皐はずいぶん酔いが回っているように見受けられた。

「ちょっと平気……?」
「あー……今日、無理かも……」

「……帰る?」

皐はわたしの質問には答えずに、橋に差し掛かると、空を仰いだ。

「……あの時もこんな、良い天気だったな……星が見えて」

わたしはすぐに、最初に飲んだ日のことを言っているのだとわかった。

「そうだね。ついこの間みたいに思い出すな……」
「……俺は、ずいぶん昔のことのように思う……」

皐はしばらくぼんやりと夜空を眺めていた。
少しやけになっているような……こんな皐は珍しい気がした。
酔うとこういう風になるのかもしれない。
そんな思いを巡らせているわたしの手を取り、歩き出した。

「帰ろ」

ふたりで橋を渡って、駅の中へと潜り込んだ。

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