舞龍
「あー、トイレ行ってくる。」


そう言ってソファーから離れたあたしと一緒に嶺は

「案内するね?」と立ち上がった。

それを手で牽制して

「平気、一人で大丈夫だから。」

と幹部室をあとにした。




幹部室の無駄に重い扉を押し開けると、辺りは騒音で埋め尽くされていた。バイクの音や、ガヤガヤとなにか話している声が耳にダイレクトに伝わってきて思わず顔をしかめた。

けど、蒼龍もこんなだったな…。

''アノ頃''の思い出が頭をよぎる。楽しかった、幸せだった。……あたしにはもったいないくらいに。


辺りを見渡し化粧品らしき場所を探す。するとあたしに気づいた下っ端くんが声を震わせながら

「お、おお、おこまでしゅか!?」

と盛大に噛んだ。これ、笑わない人いる?!あたしは思わず吹き出した。

「あはは、そんなに緊張しないでよ?あたしはただの一般人なんだから。あ、そーそー。お手洗いの場所教えてくんないかな?」


そう言うと下っ端くんは「こっちです!」と丁寧に案内してくれた。

ありがとうとお礼を言い、個室に入る。





……さてと。どうやったらバレないようにここから帰れるか。それが問題だな。

んー、正面からダダダってダッシュして帰るのもありっちゃありなんだけど、後々面倒くさそう……。

あたしはトイレの中をキョロキョロ見回す。……あっ!見つけた!

無駄に広いトイレには、これまた無駄に大きな換気用の窓があった。やばい、あたし天才かもしれない?!とりあえず、今日のところはこれでお頭しましょうかね。


窓に手をかけ、外に向かって身を乗り出した。トイレは2階で少し高すぎたかなと心配だったか、このくらいならあたしにとってはまだまだだ。


黙って帰るのも申し訳ないので、一言入れておこうと思ったが、ケー番を交換してないことに気づき持っていたメモ用紙に


『帰ります。』とだけ書いて、帰り際に迅のバイクに挟んだ。
幸い外には誰もいなかったため、追われることもなく帰路についた。


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