クールな社長の溺愛宣言!?
 会議が終わり、社長室までの道のりを長い脚の社長が闊歩(かっぽ)していく。社長は歩きながらも如才なく社内の様子に目を走らせている。いかんせんコンパスの違いがあるので、私は遅れないように早足で彼の後をついていかなければならない。

 彼が早足の時は、私は小走りだ。この一年半で、競歩選手並みに歩くスピードが上がったと思う。

 部屋に戻ると、社長はパソコンにチラリと目をくれながら、すぐに電話をかけ始めた。

 会議や外出などでしばらく社長室を離れていた時は連絡が溜まっているため、よっぽどのことがない限り、まず二十分間は必要とされることはない。

 私は簡易キッチンに向かうと、コーヒーの粉を手に取った――けれど、思い直してそれを棚に戻すと、私がよく飲んでいるハーブティーを淹れて、社長のデスクへ運ぶ。

 ふんわりと優しい香りが立ち上(のぼ)るカップを目にした社長が、不満そうに「なんだこれは?」と私の顔を見上げた。

「ハーブティーです。私が把握している限り、社長は先ほどの会議で本日六杯目となるコーヒーをお飲みになりました。そろそろ一度胃をお休めになってください」

 チラリと私を見た社長だったが、なにも言わずにカップに口をつけた。口角がほんの少しだけ上がったのを見届けると、私は自分のデスクへと戻ろうとした。
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