シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 短期間で姿かたちが変わった話なら、有名な例として、マリー・アントワネットが浮かぶ。確か牢獄に入れられ、処刑が決まったショックで髪が真っ白になったと言われている。
 女子としては怖くなるエピソードだけれど、既に伸びている髪色が一晩で変わるとは考えられず、牢獄で過ごす二ヶ月の間に伸びた分が白髪だったとか、ブロンドが光の加減で白く見えたとか、諸説あるようだ。
 日本の昔話なら、浦島太郎が有名だ。竜宮城で楽しく過ごす間は年を取らなかったのに、元の村へ戻ってきて玉手箱を開けた途端に、本来流れていた時間のとおりに年をとった。
 急に人間が老いる例は、昔からあったんだと思う。

 でも若返るのは別。
 過ぎた時間を巻き戻すのは、どんな手を使っても無理だ。自然の理に反する。
 時間は常に一定方向に進む。
 光の速さを超えて移動しない限り、わたしたちは地球上の時間から逃れられない。

 パジャマのまま、携帯だけ持って下に降りると、外出の用意を整えた母がいた。
 心なしか若く見える。
 まあ、化粧が成功したらこんなものかもしれない。
 流行なんてどこ吹く風、同じ服を何年も着ている母だから、いつもと違うとは言い切れない。

「どうしたの、じろじろ見て。どこか変? ファスナー開いてる?」
「ううん。綺麗だなぁって」
「やーだぁ。そんなこと言っても、もうお小遣いは増やせないわよ」

 お小遣いアップを頼んだ記憶はない。
 大学に入ってからは、遊ぶお金はバイト代でまかなっている。
 母がボストンバッグに携帯の充電器を入れた。

「新幹線で出かけるって、どこ行くの。実家?」
「言ったじゃない。おばあちゃんの具合が悪いから、病院につき添い」
「え、おばあちゃん生きてるの?」
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