泣かないで、楓
「バカか? オメーは」

 事務所に戻り、買ってきたパンを渡した瞬間、先輩にキレられた。

「また菓子パンを買ってきやがって。人の話を聞いてるのかよ」

 しまった。ちさとさんの年齢の事ばかり考えていて、その事をすっかり忘れていた。

「大体オメーはよ、聞く能力がねぇから、ショーでもミスが多いんじゃねぇのか?」
「は、はい」
「オメーと同じ現場だって言うだけで、行く気なくなるもんな。絶対ミスられるから」
「す、すみません」

 僕は吊り上った目つきの、先輩の顔をまともに見れず、ジッと床の模様を見続けていた。

「じゃあ、お前が行かんにゃええ」
「はっ!?」

 気がつけば、吉伸先輩が僕の後ろにいた。

「恭平、ちぃと来い」

 そう言うと吉伸先輩はポン、と僕の肩を叩いた。そうだ、用がある、って言われてたっけ。

「し、失礼します」

 僕は先輩にペコリ、と頭を下げ、その場から立ち去った。
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