泣かないで、楓
「大丈夫じゃ。現場にゃぁワシがおる。心配せんでいいんじゃ」

 そう言うと吉伸先輩は、僕の背中をポンポン、と叩いた。

「は、はい。お願いします」

 僕は震えた声で、返事をした。その返事に、まるで自信を込められなかった。

「出発するんで、急いで下さい」

 オフィスルームに、楓がピョコ、っと顔を出した。

「ああ。分かっとる。今行くけぇ」

 吉伸先輩はクルリと僕に背中を向け、その場を離れた。

「恭平、何をボーッとしとるの? 早よ行かんと」
「う、うん」

 僕も楓にうながされて、ようやく重くなった足が動いた。
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