泣かないで、楓
 出発から2時間ほどで、ショーの会場となる、カワピア遊園地へ到着した。

 ワゴン車から降り、僕と楓はすぐトランクにある荷物を出す。衣装や武器などが入った大きなスーツケースが6個。サイン会用の色紙が入った、小さなダンボールが1つ。

 僕は青ざめた顔で、荷物を一つ一つ、丁寧に駐車場の地面へと降ろした。

「大丈夫? 車に酔うたん?」

 楓は、心配そうな顔で僕を見つめた。

「いや、大丈夫。平気平気」

 僕は今、数時間後に自分がヒーローになっているプレッシャーに押しつぶされそうになっている事を楓に悟られまいと、顔を背けて作業を続けた。

「恭平、すぐリハーサルやるけぇ、準備せぇの」
「……はい」

 運転席にいる吉伸先輩から、声がかかった。その指示に対して僕は、蚊の鳴く様な声でしか返事が出来なかった。

「声がこまい(小さい)んじゃ、もっと声を張らにゃ」
「は、ハイッ!!」

 吉伸先輩に言われて、無理やり腹の底から声を出した。

 ウチの事務所は、現場に来てからすべての段取りを決める。本番までの、わずか約1時間の間に。立ち位置から段取りまで、全部覚えなくてはならない。そして、それを一つでも間違えると、先輩の激しい怒号が飛ぶ。

 そんな事もあり、僕の身体からは、嫌な汗が止めどなく流れ続けた。
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