泣かないで、楓
 僕と楓は全ての荷物を、会場のステージ横にある楽屋へと運んだ。楽屋は、運動会とかに使う白いテントに、周囲を青いビニールシートでグルグルと巻き付けられているだけの、簡素なモノだった。

 運んできたスーツケースの中から、ヒーローと怪人が持つ剣を取り出し、楽屋の外に出た。青空から照りつける太陽光が、全身にジリジリと突き刺さる。

「あ」

 ふと、僕はある事に気がついた。

「どうしたん?」

 一緒に楽屋を出た楓は、不思議そうな顔で僕を見た。

「このステージ」
「うん」

 僕は、ショーの会場となるステージをスッ、と指差した。

「屋根、ないんだけど」
「そうやね」

 平然と答える楓。古い木で出来たステージは、学校の体育館のステージと同じくらいの大きさだった。昇降用の階段が、舞台の前に2つに置かれており、黒のペンキがところどころ剥がれた様子から見ても、かなり年期が入っている様だ。

「楽屋も、暑かったよな」
「そうね」

 僕と楓はステージの上へ移動し、ゆっくりと周囲を見回す。

 会場は、プラスチック製の青い席が200席ぐらい置かれており、半円状にずらっと並んでいる。その円の切れ間にステージはあった。

 ステージの上から見える風景は、会場全体が生い茂った木に囲まれていた。目線を上げると、ジェットコースターや観覧車など、背の高い乗り物が、木の上から顔を出している。

 僕はステージの上を、一歩一歩ゆっくり歩いてみた。まるで鴬張り(うぐいすばり)の様に床がギイ、ギイと悲鳴を上げている。

「死ぬんじゃない? こんな中でショーをやったら」
「アハハ。こんなんで死んでたら、身体が足らんわ」

 顔面蒼白の僕に対して、楓はニマーッとした笑顔を見せた。

「ウチはこー言うの慣れとるから。ま、平気やね」

 慣れてる、の問題だけで済むのだろうか。ジリジリとした太陽光は、確実に僕らの体温を上昇させている。首にかけたタオルでは、とてもじゃないけど汗のしずくを受け止めきれない。

 Tシャツとジャージでいる今でも、熱中症になりそうなくらいの気温なのに。何を思って、この女は“平気”と言い切れるのか。そしてこの笑顔は。

 僕は楓の事を、ますます理解が出来なくなった。
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