泣かないで、楓
「ええなぁ、それ。ウチも真似してええ?」

 楓は、汗だくになったTシャツを片手で引っ張り、バタバタと扇(あお)いだ。

「し、したらいいじゃん。今すぐ脱げるならね」

 僕は元気そうな楓に皮肉を込めて、眉をひそめながら返事を返した。

「じゃ、そうするわ」

 その言葉が聞こえた瞬間、床に転がっていた僕は、瞬時に楓から視線をそらした。コイツ、冗談も通じないのか。しばらくするとガサゴソと音が聞こえた。明らかに服を脱いでいる音だ。

「うわ、でれすげーやん」

 ボタボタと、汗がこぼれ落ちる音が、背後から聞こえた。見てはいないが、明らかに分かる事。楓は今、ブラ一つで僕の後ろにいる。

「見てや恭平、でれすげーげ」
「楓……」
「何?」

 この場合、何と言えばいいんだろう。僕は完全に言葉を見失っていた。

「で、でれすげ、って何?」
「え? 標準語やと、とてもすごい、なんかな?」

 いかん。そんな事を聞いている場合じゃない。

「ゴメン、僕が悪かった」
「何が?」

楓は何も気にしていない様子だ。羞恥心はないのか、この女には。

「い、いいから、早く服を着ろよ」
「はっは~ん」
「な、何だよ」

 何かを悟った様な楓の声色に、僕は一瞬ドキリとした。
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