泣かないで、楓
「それで、どう返事したの?」
「そんなん、シカトやシカト。返す義理なんてないわ」

 楓は自分の顔の前で、右手をパタパタと振った。

「ふーん。そうだったんだ」
「恭平、気になるん?」
「え?」

 楓は、目をランランと輝かせながら僕を見つめた。

「気になる、って言うか」
「うん」
「どうでも……」

 正直に言うと、楓と吉伸先輩が付き合う事になったら面倒だな、と思った。ショーでも活躍している楓が気に入られて、事務所の中心核の先輩に贔屓(ひいき)にされていったら、ますます自分との距離が離されていくみたいで、惨めな気持ちになるからだ。

「あそ。ホンマ、つまらん男やね」

 そう言うと楓は、プイと僕から視線をそらし、突然立ち上がった。

「あーあ。どーでもええけど、ショーでミスらんといてな。先輩、キレると大変やから」

 そう言い残し楓は、足早にテントを出て行った。

 楽屋に残された僕は、楓の自由気ままな態度に、ちょっとした憤り(いきどおり)を感じていた。
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