泣かないで、楓
 いよいよ、ショー本番の時間となった。何度も何度もアクションは確認した。あとは、子供たちの前に出るだけだ。

 初めてヒーローに変身する。子供の頃から憧れていたモノに、ようやくなれるのだ。通気性ゼロの、クソ暑い黄色のスーツに身を包み、出番を待つ。僕は心臓が飛び出しそうなくらい、ドキドキしていた。

 後ろから、肩をポン、と叩かれた。ピンクのスーツに身を包んだ、楓だった。

「大丈夫? 緊張してるんちゃう?」
「だ、大丈夫。稽古はちゃんとしたから」
「ホンマ? 面(めん)をとって、大丈夫かどうか顔が見たいわ」
「もう無理だよ。もうすぐ始まるし」
「冗談や冗談。真に受けんといて」

 そう言うと楓は、僕の背中をバシバシと叩いた。

「お前ら、静かにせぇよ。本番が始まるんじゃ」

 吉伸先輩は、赤いマスクの上から、冷たい口調で言い放った。

「みんな、大きな声で呼ぼう!! せーのっ!!」
「アイムレンジャー!!」

 ド派手なチェック柄の衣装に身を包んだ、司会役のちさとさんに誘導され、会場の子供たちは高らかに僕らを呼んでくれた。

「行くど」

 吉伸先輩の声に対し、僕はすでに喉がカラカラになり、返事が出来なかった。

「とぉーっ!!」

 カラフルなヒーロー戦隊はかけ声と共に、颯爽とステージの上に5人集結した。

 登場した瞬間は何とも言えない感動だ。子供たちが、皆こちらを見ている。戦闘員の時には味わえなかった興奮に、僕はブルブルと身体を震わせた。
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