泣かないで、楓
「えっ!?」

 僕は楓が言った言葉の意味が、よく分からなかった。そして、何故泣いているのか。

「ちゃうちゃう、全然ちゃうっ。ウチ、どーでもええ人やもんね」

 楓は自分の表情を隠す様に、洗濯機へ走っていった。そして、顔をゴシゴシと腕でぬぐった。

「早よ行こうや。先輩たち、待っとるよ」

 楓は、いつも表情に戻った。普段通りの、屈託のない笑顔だ。

「う、うん。そうだね」

 2人でヒーローたちの衣装を洗濯機から引っ張りだし、竹編みのカゴに詰める。そして僕らは、先輩たちが待つ宿へ向かった。その帰り道、一言も会話を交わさぬまま……。
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