危険地帯
数日後、子犬が捨てられていた場所を偶然通った。
そこには、もう“あの日”の子犬はいなくて、俺がさしてやった傘だけがポツンと残っていた。
誰かに拾われたのか、それとも……。
『深月、どうした?』
『いや、なんでもねぇ』
急に立ち止まった俺を不思議に思った司に、俺はそう返事して、再び歩き出した。
胸には、子犬を見捨てたことへの痛みは、なかった。
『俺って、』
最低だな、と思うと同時に、“黒龍の相良深月”になっていっていることを嬉しく感じた。
後悔はしていない。
これで、いいんだ。
“あの日”の雨が溜まってできた水たまりの上を、よけずに踏んだ。
ピシャッ、と雨水が数滴飛び散った。
俺の瞳には、何も映されていなかった。