危険地帯



それが、とても苦しくて。


頭よりも、胸の方が痛かった。



「泣けなかったんだよ!」



お父さんが、あの時泣いていたから。


私が泣くよりも早く、涙を流していたから。



私がしっかりしなくちゃって、思ったんだ。


泣いちゃダメだと、溢れていた涙を拭ったんだ。



お父さんの瞳には、去っていくお母さんの姿しか映っていなくて。


私がここにいることを、お父さんの近くにいることを、私がお父さんの子どもだということを、忘れてしまったかのように泣いているから。


私は、孤独を感じたんだ。




『独りは嫌だ。ずっとそばにいてくれる存在が欲しい』




幼い私が抱いていた、ひとつの願い。


お父さんは、私の願いも私が感じた孤独感も、知らないんでしょう?




「本当は、私なんかどうでもいいんでしょ!?」




だから、勝手な思い込みをして、都合のいい解釈をして。


私に薄っぺらい信用を寄せたんだ。


私がいついなくなってもいいと、私は要らないと、心のどこかで思っていたから、「大丈夫」だと笑えたんだ。



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