世界が終わる音を聴いた

この街の右をみても左を見ても、黒髪と言うのは俺くらいなものだった。
亜麻色、栗色、濃くても焦げ茶色がせいぜいで、黒髪と言うのは異様に目立つ。
それゆえに、保守的なこの街の人々は、俺のことを異端なものを見るような眼差しでみていた。
不躾なその視線は子供だけでなく、大人からも突き刺さっていた。
居心地としてはあまり良好とは言えず、かといって俺には何を言う権限もない。

この物珍しい容姿で、慈悲深いと噂のルナの父親に使用人としてこの“薔薇屋敷”に引き取られたのは数えで言えば俺が10の時、ルナはまだ6歳だった。
引き取られたといえば外聞的に聞こえはいいが、内情は“買われた”ようなもので、表向きは慈悲深いと噂だったルナの父親には、屋敷の中で汚いものを見る目で蔑まれ続けた。
それをよく思わなかったのが、父親の愛情を一身に受けていた娘のルナで、彼女は度々俺をかばった。

「お父様はダメよ。本当に、良くないったらないわ!外ではハデスのことをかわいそうだなんだって言うくせに」

憤慨するそれは、友達内から弾かれているときよりも度合いが大きく見える。
それは多分、見え隠れする父親の黒い部分を、許容できない彼女のまっすぐな気質。
身内であるというところがよりその嫌悪を大きくさせるのだろう。

「俺は使用人なんだから、そんなに怒らなくったって良いですよ。主人は主人なんです。……引き取ってもらっただけで充分ですよ」
「それでも!ダメよ。だってお父様、私とハデスを遊ばせようとしないのよ?私がいなくなったら、ハデス、友達もいなくなっちゃうわよ」
「いいんですよ、それで。もともと友達なんて居なかったんですから。それよりお嬢さん、ちゃんと勉強してくださいね」
「もう、勉強なんて。……いやなハデスね!ひとりぼっちになっちゃったって、知らないんだから!」

そう言って走り去るルナの後ろ姿を、込み上げてくる気持ちに蓋をして、何度見つめただろう。


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