世界が終わる音を聴いた

誰に何を言われようと、彼女だけは味方をしてくれる。
たったそれだけのことがどれだけの力をくれたことか、きっとその彼女自身は考えたこともないのだろう。
仲間外れにされても、蔑む目で見られても、馬車馬のように働かされようと。
ルナがそこにいる、ただそれだけで俺にはこの街を、屋敷を出ていく選択肢はなかった。

「ハデス!今日は何をするの?」
「庭の樹の剪定ですよ。ここは旦那様のお気に入りの場所ですから」
「あら!私だってこの庭はお気に入りよ?」
「またついてくるんですか?」
「ええ、もちろん!誰といるよりあなたといる方が楽しいわ。それにもう、今日の分のお勉強は済ませたもの。文句は言わせないわよ?」
「……みなさんに、見つからないようにしてくださいよ」
「心配性なんだから、ハデスは」

クスクスと笑う姿は、もう少女のものではない。
美しさを身に纏う、紛れもない立派な女性だ。
その姿を眩しく感じて、俺は庭木の剪定に向かう。

「待って、ハデス!」

追いかけてくるその様子は少女のままのようなのに、もうそれだけではない。
彼女は17歳、俺は20歳になろうとしていた。




―――ちょうどその年の冬、俺たちを取り巻く運命は動き出そうとしていた。



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