世界が終わる音を聴いた

その頃のこの街では、17歳といえば女性の結婚適齢期と言われていて、ご多分に漏れずルナにも縁談の話が持ち上がっていた。
良家の子女で、多少のお転婆はあろうとも才色兼備と名高いルナには縁談の申し込みも多く、引く手数多だ。
本人もそれとなく縁談の話に気付いているようだったが、旦那様からのそういった話題をのらりくらりと交わしていた。
しかしルナがそうやって話を先に延ばしていることで、本人の意思とは関係なく縁談は水面下で纏まろうとしていたのだ。




――コン、コン、コン。

「……」

ノックをしても返事がなかったので、失礼しますよ、と呟いて扉を開けた。
案の定、というか当たり前に部屋にはお嬢さんがいて改めて声をかける。

「お嬢さん、お茶ですよ」

お嬢さんは、ちらりちらりと雪の舞う庭を見ていた。
“薔薇屋敷”と呼ばれるだけあって、シーズンになればその庭はとりどりの薔薇が咲く美しい庭だが、今は雪に埋もれて白く染まっている。
俺は言われていたお茶をテーブルに置き、溜め息を吐く。
わざわざ人を呼びつけてお茶を淹れさせたというのに返事はおろか、こちらの方を見ようともしない。
お嬢さんがナーバスになっている理由もわかるので俺は甘んじてそれを受け入れる。
その理由は、俺も目を瞑りたくなるようなことだからだ。

「お嬢さん。お茶、置いておきますから」

俺はもう一度声をかけて、そのまま下がろうとした。
そんな俺にルナは窓の奥を見つめながら、ポツリと言った。

「ハデス、もし、よ。もし、私を連れて逃げて欲しいと言えば、あなたは私をさらう勇気はある?」



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