世界が終わる音を聴いた

その質問に心臓が強く動いた。
グッと息が詰まって苦しいくらいだ。
何も答えられずに立ち尽くした俺に、ようやく振り返った彼女は慌てて言う。

「今の、無し!忘れて。……あなたの主人は私じゃないものね。気にしないで。お茶、ありがとう」

だんだんと語尾が小さくなっていく言葉を紡ぐのは寂しそうな笑顔。
その顔の破壊力と言えば、先程の息苦しさの比ではないほど。
そして次の瞬間、息が止まるほどの衝撃を受けた。



――ルナが泣いているのだ。

美しいその瞳から、一筋。
するりと、滴が伝う。
気の強い彼女は人前で涙を流すことを嫌った。
悔しいときも、悲しいときも、その小さな体にすべてを閉じ込めて、強くまっすぐな気高さを持っていた。
閉じられた扉の奥、すすり泣く声を漏れ聞いたのは一度や二度では効かないが、初めて会った6歳の頃から彼女の涙を見たことは一度もない。
その彼女が、泣いているのだ。
不謹慎にもそれを美しいと思ってしまうと同時に、衝動を抑えられなかった。
一歩踏み出したのは、半ば無意識だっただろう。

静かに歩みより、俺はその頬に初めて触れる。
掌に感じる君の温度は暖かく、陽だまりのようだ。
親指の腹で瞳から溢れる涙を拭うと、俺の手を包むように君の手が重なる。
そっと閉じられた瞳から、ぽろぽろと滴が落ちていく。
止めどなく流れるその涙を手に感じながら、俺はその小さな体を抱き締めた。


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