偽装結婚いたします!~旦那様はイジワル御曹司~
そんな風に思いつつ、埼玉支店の送別会から顔を見なくなって5年。
今度は俺が本社に転勤になった。
柴本は地味だ。
転勤後に埼玉で彼女の噂など流れるわけもなく、どうしているのかなんて全くわからなかった。
この5年の間、俺だって存在を忘れていたくらいだから。
もしかしたら、結婚してもう会社を辞めているかもしれない。
そうしていたとしてもおかしくない年齢だ。
全く期待などせず、転勤先の本社を訪れると、そこにはあの頃と変わらない柴本がいた。
地味で目立たない柴本。
それを見つけた俺は、何故かものすごく嬉しくなった。
自分だけが宝物を見つけた気にさえなって。
心がウキウキと弾んだ。
「お久しぶりです、柳原さん。…私のこと覚えてますか?」
「ああ。もちろん。俺もこっちに転勤になったから、またよろしくな」
覚えているに決まってる。
向こうも忘れてはいなかったようだ。
俺はバカか。そんなことが嬉しいなんて、子供か。
真っ先に彼女の左手の薬指を見た。
指輪はない。苗字も変わってない。結婚はしていないようだ。
ふぅ~ん、そうか。そうなのか。
まだ結婚してないのか…。