忘れたはずの恋
賑やかな場所に戻ると、私の座る場所がなくなっていた。

近藤さんと大東さん、更には総務や集配の若い人達が集まって賑やかに談笑していたので私はゆっくりと周りを見渡した。

こちらに向かって手を振る人がいるので見つめると吉田総括や相馬課長。

集配の役職者が集まっている。

私は頷いてそこに向かう。

「お疲れ様です」

そう言って、吉田総括と相馬課長の間に座った。

「…藤野と話、出来た?」

相馬課長の言葉に私は目を見開く。

見られてたのー!?

「えっ…まあ」

動揺を抑えながら吉田総括と相馬課長の顔を交互に見た。

「…藤野、吉永さんに気を使わせているんじゃないかってずっと気にしてたよ」

吉田総括は続けた。

「『きっと、バイクなんて全く興味がないのに、無理矢理誘ってしまったかもしれません』って相談に来るんだよ。
見た目はちょっとヤンチャだけど、彼の本性は真面目。
常に周りの事を見ている。
だから吉永さんに謝りたかったんじゃないかな」



…あの春の偶然会ったあの日の会話。

ずっと気にしてくれていたんだ。



「…逆に申し訳ないです」

私は泣きそうになりながら声を出した。

「私よりずっと年下の彼に気を使わせてしまって」

…胸が苦しくなる。

「まあ、あの子はそんな環境の中、育ってきてるからね。
人への気遣いは半端じゃないよ」

相馬課長はそう言って、煙草に火を付けた。

「相手に無理強いをさせて傷付けたらどうしようって思っているみたいだよ。
だから本当に無理しているなら止めても…」

「行きます!」

相馬課長の言葉を遮った。

「…観てみたいと思いました。
彼が命を掛ける意気込みで戦うところを。」

「そうこなくっちゃ!」

吉田総括は嬉しそうに笑った。
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