忘れたはずの恋
眠いのは嘘。

本当は君の言う通り、ここに来たくなかったの。

でも…藤野君のその透き通った目を見たら、こんなイヤな想いを口にしたくなかった。

「…吉永さん」

藤野君は左手を胸の前でギュッと握り締めた。

「…バイクとかあまり興味、ないですよね?」

顔は微笑んでいるのに目は笑っていない。
まだ18歳なのに、こんな雰囲気を出せるなんて怖い。
ちょっと怖れて声を出せない私が返事をする前に彼は口を開いた。

「無理に来なくても結構ですよ。
暑いし、日焼けもするし。
疲れて、仕事に影響するような事があれば本当に申し訳ないですから」

ようやく彼の目が笑った。

私は大きく深呼吸をして、意を決した。

「…本当はバイクなんて全く興味がない。
けどね、吉田総括が仕事の合間にそれがどれくらい大きな大会か、熱く語るの。
そんな場所で藤野君が走るなら、観たいなって思ってる」

…今、思った。

彼を観てみたいって。

それは嘘じゃない。

「だから、日曜だけになるけど…行きます」

嬉しそうな顔をした藤野君は

「絶対に来てくださいね。
…パドックにも是非、お越しください。
総括にパスは何枚かお渡ししていますので」

藤野君はスッ、と顔を上げて向こうから来る人の気配を感じて見つめていた。

そしてチラッと私を見て、頭を軽く下げて笑うとその気配がする方向へ歩いていった。
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