忘れたはずの恋
「来てくださってありがとうございます!」

藤野君はバイクから降りて私達に頭を深く下げた。

履いてる半パンから覗く足が細くてびっくり。
骨と皮だけか?と言いたい。
そこにギリギリ筋肉が付いているのかなあっていう感じ。

「他に誰か来た?」

相馬課長が訊ねると

「はい、局長と総務部長と集配部長と…」

大御所の名前がポンポン上がる。

「藤野、せっかくだから一緒に写真撮ろう!」

吉田総括がにこやかに言うと藤野君も頷いて、

「跨がってみます?」

と掌をバイクに向けた。

「「乗りたいー!」」

吉田、相馬両課長が嬉しそうに手を上げると藤野君はクスクスと笑って

「どうぞ」

と場所を譲った。

お二人の嬉しそうな姿をカメラに収める。

まるで子供だわー!
…でも、羨ましい。

そんな風に楽しめる事があるというのが羨ましい。

「吉永さんもどうぞ」

藤野君は微笑んで私を見つめた。

「えっ…でも」

スカート風のキュロットなので、バイクに跨がれない事はないけど。

バイクに跨がった事がない、私。

「…大丈夫ですよ。
僕、何なら抱っこして乗せましょうか?」

ち…ちょっとー!!
暑いのに更に顔が火照るのがわかる。

それを見た藤野君は実に愉快そうに笑うと、

「ここに左足を掛けてください」

バイクの側面にあるステップを指差した。

「で、両手でハンドル握って…」

その通りにする。

「左足に力を入れてその反動で右足を上げて跨がってください」

おお…。

右足がつりかけた…。

でも乗れた。

初めて跨がったバイク。

自分の視界が上に上がり、世界が広がった感じがする。

「藤野、後ろに乗って二人乗りしてよ」

そ…相馬課長ー!?

セクハラ発言ですよ?

「…吉永さんが嫌がりますよ」

藤野君はやんわりと断る。

「吉永さん、全日本ライダーと一緒にバイクに乗る機会なんて彼女じゃない限り、ないですよ」

吉田総括ー!?

「面白い!それ、是非やろう!」

隣でこの会話を聞いていたチャラい人がニヤニヤしながらこちらを見ている。

「…祥太郎さん、さすがにダメですよ」

藤野君はため息をつく。

「彼女はどうなの?
藤野がキライなら仕方がないけど」

祥太郎さんと呼ばれた人が私に話し掛ける。

「ここだけの話、藤野はモテるよ。
一緒に跨がりたい奴なんてこの周りにウヨウヨいる。
同じ会社の人だよね?
その特権、使っちゃいなー!」

こそっと耳打ちされた…。
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