忘れたはずの恋
「…へぇ、大胆な発言」
吉田総括が嬉しそうに藤野君の肩を叩いた。
「まあ君の実力からすれば、何事もなければ勝てるレース、ですか」
そんな総括の発言に藤野君は首を横に振る。
「そんなレースなんて有り得ません。
常に勝つのが当たり前のようなトップライダーでも、『絶対』はないです」
藤野君は透き通るような目で私を見つめた。
「だから『賭け』なんです。
…次のレース、何故か全日本で走っているライダーが何人かエントリーしているんです。
僕がその人達を抑えるのは厳しいと思います。
僕には経験値が少なすぎるんです。
今年からJSBに上がって、経験が足らなさすぎだから監督が調整に選んだレースだったんですけど…」
噎せていた相馬課長がようやく口を開いた。
「そんな勝てなさそうなレースでよく賭けようと思ったな」
そう言って、また噎せた。
「それだけ本気だという事です」
そんな真っ直ぐ私を見ないでー!
耳が赤くなる感覚がする。
「吉永さん、完全に藤野のペースですけど。
この賭け、どうします?」
私は賭けるなんて一言も言ってませんよっ!
「あの…」
少し呼吸を整えてから口を開いた。
「負けたらどうなるんですか?」
藤野君は一瞬笑って鋭い目を私に向けた。
「負けたらご縁がなかった、という事です。
その時は潔く諦めます」
勝負師の目、とはこういう目の事を言うんだろうな。
怖くてゾクッとする。
「そんな賭けをしなくても、吉永さんが白旗を上げて藤野と付き合うというのはないのかねえ〜」
隣の相馬課長はお気楽な発言をする。
年上でなければ軽くグーで殴ってしまっているかも。
「私もそう思います」
「よ…吉田総括!!」
思わず叫んでしまった。
「私から見れば、藤野はここに入ってきた最初から吉永さんが好きなのはよくわかってましたけど。
吉永さんも少しずつ藤野に惹かれていっていたと思うんですよね」
…あああ。
年甲斐もなく、私の顔は赤くなっている。
アルコールの所為にしたい。
「で、どうします?
藤野の賭けに乗ります?
それとも乗らずに付き合います?」
どうして…どうして…
「…付き合わない、の選択はないのですか?」
相馬課長が手を叩きながら大笑いをした。
しばらく笑ってから急に真剣な顔をして
「じゃあ吉永さん。
今のままプラトニックな関係でいくとして。
もし藤野が他の誰かと付き合って結婚でもしたら、耐えられる?」
究極の選択を迫る、我が上司達。
3人の視線が私に突き刺さった。
吉田総括が嬉しそうに藤野君の肩を叩いた。
「まあ君の実力からすれば、何事もなければ勝てるレース、ですか」
そんな総括の発言に藤野君は首を横に振る。
「そんなレースなんて有り得ません。
常に勝つのが当たり前のようなトップライダーでも、『絶対』はないです」
藤野君は透き通るような目で私を見つめた。
「だから『賭け』なんです。
…次のレース、何故か全日本で走っているライダーが何人かエントリーしているんです。
僕がその人達を抑えるのは厳しいと思います。
僕には経験値が少なすぎるんです。
今年からJSBに上がって、経験が足らなさすぎだから監督が調整に選んだレースだったんですけど…」
噎せていた相馬課長がようやく口を開いた。
「そんな勝てなさそうなレースでよく賭けようと思ったな」
そう言って、また噎せた。
「それだけ本気だという事です」
そんな真っ直ぐ私を見ないでー!
耳が赤くなる感覚がする。
「吉永さん、完全に藤野のペースですけど。
この賭け、どうします?」
私は賭けるなんて一言も言ってませんよっ!
「あの…」
少し呼吸を整えてから口を開いた。
「負けたらどうなるんですか?」
藤野君は一瞬笑って鋭い目を私に向けた。
「負けたらご縁がなかった、という事です。
その時は潔く諦めます」
勝負師の目、とはこういう目の事を言うんだろうな。
怖くてゾクッとする。
「そんな賭けをしなくても、吉永さんが白旗を上げて藤野と付き合うというのはないのかねえ〜」
隣の相馬課長はお気楽な発言をする。
年上でなければ軽くグーで殴ってしまっているかも。
「私もそう思います」
「よ…吉田総括!!」
思わず叫んでしまった。
「私から見れば、藤野はここに入ってきた最初から吉永さんが好きなのはよくわかってましたけど。
吉永さんも少しずつ藤野に惹かれていっていたと思うんですよね」
…あああ。
年甲斐もなく、私の顔は赤くなっている。
アルコールの所為にしたい。
「で、どうします?
藤野の賭けに乗ります?
それとも乗らずに付き合います?」
どうして…どうして…
「…付き合わない、の選択はないのですか?」
相馬課長が手を叩きながら大笑いをした。
しばらく笑ってから急に真剣な顔をして
「じゃあ吉永さん。
今のままプラトニックな関係でいくとして。
もし藤野が他の誰かと付き合って結婚でもしたら、耐えられる?」
究極の選択を迫る、我が上司達。
3人の視線が私に突き刺さった。