忘れたはずの恋
「あいつね、まだ19歳だけど。
普通の19歳では経験しないような事を沢山経験している。
…話しててさ。
自分より年上の感覚になった事、ない?」

祥太郎さんは急に真面目な顔をして、精神を集中させている藤野君を見つめる。

「それは…まあありますけど」

「…違和感は?」

違和感…?

私が首を傾げたのを見て、祥太郎さんは溜め息をついた。

「まあ、それはこれから自分の目で見るといいよ。
あいつが自分自身をコントロール出来ない時は支えてやって欲しいというのが俺の希望。
…今日、あいつが勝てば、の話だけどね」

フッと私を見て笑った。

そう、藤野君が勝たないと…後はない。

うん、後はない。

…で、その後。

どうなるんだろう。

普通に職場で会って、普通に会話して。

それだけの話。

こういう場所にも来なくなるだろうし。

私の中で少し切ない思い出として、残るだけ。



「あ、来てくださってありがとうございます」

いつの間にか目の前に藤野君が立っていた。

慌てて私は彼の目を見つめた。

いつもの、優しくて穏やかな目をしている。

「…約束、覚えてます?」

少し微笑んで藤野君は言う。

「もし、勝ったら守ってくださいね?」

私が頷く間もなく、彼はくるっと踵を返してマシンに向かって歩いて行った。

「…守ってやれよ~」

後ろでその様子を見ていた相馬課長の声が聞こえてきて急に恥ずかしさを覚えた。

「藤野頑張れ~」

小声で言う吉田総括。

お二人とも、止めてください。

顔から火が出そうだ。
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