忘れたはずの恋
藤野君のマシンは左側がほぼ大破していた。
彼のライディングスーツも左側が酷い有り様。
監督と何やら真剣に話をしていた。
そこに祥太郎さんも加わって…。
あんな真剣な祥太郎さんも初めて見た気がする。
「お疲れ様」
話が終わると監督と祥太郎さんは藤野君の肩をポンポン、と叩く。
藤野君は何度か頷いてからうつ向き加減の顔をようやく上げてゆっくりと周りを見回す。
「お疲れ様」
周りから掛かる声に藤野君は深々と頭を下げた。
そして私を見つけると、あの透き通るような目で真っ直ぐ捉え、ゆっくりと私に向かって歩いてくる。
背中に変な汗を感じた。
ざわついていた周りも静まり返る。
「結果を出せず、申し訳ありません」
藤野君は背筋を一瞬、伸ばして深く頭を下げた。
どう返して良いのか迷っていると彼は顔を上げて
「それと僕の変な賭けにお付き合いさせてすみません。
もう、二度とそんな事は言いません。
子供の戯れ言に一瞬でも振り向いて貰えた事は…」
藤野君は頭を左右に振りながら俯いた。
「僕、嬉しかったです。
だから頑張る事が出来たんですけど。
…一瞬、気が緩んでしまったんですね。
いけるって思ってしまった」
顔を上げた藤野君は本当に悔しそうに唇を噛み締めた。
「もう、こんなワガママは言いません。
吉永さんの事も追い掛けません。
職場では一人の部下として、今まで通り接して下さい」
身を引き裂かれた気がした。
クルッ、と踵を返した藤野君。
…待って!
そう言いたかったのに。
何も言えない。
彼のライディングスーツも左側が酷い有り様。
監督と何やら真剣に話をしていた。
そこに祥太郎さんも加わって…。
あんな真剣な祥太郎さんも初めて見た気がする。
「お疲れ様」
話が終わると監督と祥太郎さんは藤野君の肩をポンポン、と叩く。
藤野君は何度か頷いてからうつ向き加減の顔をようやく上げてゆっくりと周りを見回す。
「お疲れ様」
周りから掛かる声に藤野君は深々と頭を下げた。
そして私を見つけると、あの透き通るような目で真っ直ぐ捉え、ゆっくりと私に向かって歩いてくる。
背中に変な汗を感じた。
ざわついていた周りも静まり返る。
「結果を出せず、申し訳ありません」
藤野君は背筋を一瞬、伸ばして深く頭を下げた。
どう返して良いのか迷っていると彼は顔を上げて
「それと僕の変な賭けにお付き合いさせてすみません。
もう、二度とそんな事は言いません。
子供の戯れ言に一瞬でも振り向いて貰えた事は…」
藤野君は頭を左右に振りながら俯いた。
「僕、嬉しかったです。
だから頑張る事が出来たんですけど。
…一瞬、気が緩んでしまったんですね。
いけるって思ってしまった」
顔を上げた藤野君は本当に悔しそうに唇を噛み締めた。
「もう、こんなワガママは言いません。
吉永さんの事も追い掛けません。
職場では一人の部下として、今まで通り接して下さい」
身を引き裂かれた気がした。
クルッ、と踵を返した藤野君。
…待って!
そう言いたかったのに。
何も言えない。